大西洋をのぞむアイルランド西部の丘にたつと、
海からの潮騒と潮風につつまれ
「遙か彼方にアメリカ大陸がある」
という想像を身近なものにしてくれる。
アイルランド西部の荒涼としたやせた土地に住むものにとって
職を求めここから出て行かざるをえなかった時代があった。
それはイギリスによる搾取と、その要求に追いつかない、
やせた土地が理由だった。
人々はこの土地を憎み、傾いた地面から転がり落ちるように
故郷を離れた。
多くの移民が目指したのはアメリカだった。
タイタニック号の3等客船にいた大半の乗客は
そうしたアイリッシュである。
皮肉にも、彼らは真っ二つに割れた船体の甲板を
転がるように冷たい大西洋の海に落ちていった。
この国の歴史と重ねるように、人それぞれに、人生のある時期に憎んだり恨んだりしたときにみた風景がある。
だが、かつての憎しみや恨みの原風景が
自分を受け入れてくれる時がある。
その風景は、どう心に映るのであろうか。
それはこのアイルランドの丘にある風景のように
その人の人生を超越して
「何も云わず、いまもむかしも何もかわらずただそこにある」
ということだろう。 |