ある農家の飼い猫に出会った。
ネコの背中の向こうには、葡萄畑とオリーブ畑が広がっている。
ここは、なだらかな丘が幾重にも重なり、糸杉が立ち並ぶ美しい農村地帯。イタリア中部のトスカーナ州。
このすぐ近くには世界遺産になっている古都シエナがある。
絵の具の色にシエナ色(Sienna)という色がある。
高いところから街を見下ろすと、一面のレンガ色に目を奪われ
その色の生まれた意味をすぐに理解できる。
古色を配した街の周辺は新緑の季節を迎えようとしている。
食の国イタリアでは、10年以上前から『 スローフード 』という運動がある。【 消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、ワイン(酒)を守る
】などの指針があり、本来の食べるということの原点を考えさせられる。
いま人類は『ファーストフード』の時代を生きている。
それは経済優先のシステムであり、そこに個人の幸せはない。
食べ物から感じることのできる物語がないからである。
食べるという生きていくうえでの原点を、粗末にする民族に
明るい未来はない。
ここの農家で食事をごちそうになった。
ワインもソーセージも料理の全てがこの農園から作られたもの。
お父さんは夜明け前から農作業に追われ、お母さんはそんな家族のために一日中、台所に立つ。
その農家から帰るとき、庭先にこの家の猫がいた。
猫の背中を見ていると、猫も幸せそうに見えたのは・・・
気のせいだろうか。
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