夏の風がススキの穂を揺らし、ゆっくりと通り過ぎてゆく。
アイルランドの山間の墓地、そこに天使の像があった。
墓碑銘には幼くして亡くなった子どものことが記されていた。
『 命は永遠ではない 』というあたり前の事実にあらためて気づく。
だが人は、命を「永遠」にと願うことがある。
かつて、秦の始皇帝が【 不老不死 】の薬を求めたように。
かたわらにいた、イギリス人の友人はこんな話をした。
『 むかし、ある国の王様が、【 不老不死 】の薬を求めて、部下を連れて世界を旅した。その旅は一ヶ月、二ヶ月と続いたが・・・
【 不老不死 】の薬を見つけることはできなかった。
一行は、旅の途中、深い森に迷い込んでしまった。
途方に暮れた王様は、傍らの朽ちた倒木に腰を掛けた。
そのとき彼は倒木に不思議なものを見つけた。
割けた樹皮のすき間から木の新芽が顔を出していたのだ。
木の種子が倒木のすき間に偶然入り、倒木の養分を得て発芽したものだった。これを見た王様は、命の輪廻とはなんであるかを知り、【不老不死
】なる薬を追い求めるのをやめ、さっさと国に帰っていった 』。
永遠の命とは朽ちた倒木と種子のようなもの。
いま生きているということは・・・
想像を超えた大きな存在によって生かされているということ。
一生は思っているよりもきっと短いものだろう。
人はやがて土に還るが、遺り受け継がれていくものがある。
命の火は尽きても、あの倒木のようになればいい。
木立のなかで、天使が少し微笑んでいるように見えたのは
朽ちた倒木の話を聞いたからかもしれない。
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