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こちらのコラムは1995年より『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。

医療事故と人間工学 2000

相次ぐ病院での点滴と経管栄養の取り違えによる事故が報道されている。マスコミはその対応の遅さ、事故隠しを報道している。その論調の共通点はこうだ。

「あってはならないことが起こった。」

事の本質はどうなのか。

そもそも、まずあってはならないことイコール注意していれば起こらないという誤った認識があるのではないか。

ひとはミスを犯す。そして、誰もミスをしようとしてミスを犯すものはいない。いくら気をつけていてもミスはある確率を持って起こってくる。

人−機械、器具の接点がある以上、ミスは起きる。この場合、システム全体をミスの原因と捉ええなければならない。

元来この考え方は1980年代に米国での航空機事故多発をもとに発達した。事故の要因を「航空機乗組員」「航空機」「環境」の三要素から分析していくやり方である。

同様の方法で、医療事故を分析すると「医療従事者」「医療器具」「環境、システム」の三点から見る必要性が解る。

例えば、今回の経管栄養と点滴の取り違えに関して言えば、筆者を含めて多くの医療従事者が似たようなケースや、ヒヤリハット事故を経験しているはずだ。

にもかかわらず、同様の事故は繰り返されている。このことは、正常なフィードバックがなされていないことを示している。つまり、システムの問題である。

また、誤注入は三方活栓の口径を違えれば防げたはずである。笑気酸素における麻酔事故と同じである。筆者を含め多くの医療従事者が、20年も前から要求してきたことである。とある業者は、同様の内容を新聞の論説に掲載するとの話しをしたところ、3日後に試作品を納入してきた。笑止千万だ。

つまりこのことは、単なる個人的な問題ではなく、医療全体のシステム、構造の問題と言えよう。

勿論、医療従事者の問題点も多い。病院の危機管理システムについて、会議等で多くの時間と意見が交わされ、分厚いマニュアルが配布されている。

しかし、どれだけの人がそれを熟知しているだろうか。

筆者は自らも操縦かんを握るパイロットであり、航空身体検査医の立場からもラインのパイロットのシュミレーター訓練に同席する機会がある。

そこでのクルーマネージメントの要点は三点、ブリーフィングとチェックリストとリードバック(復唱)である。

ブリーフィングとは、これから何をどうするのか、トラブルが起こった時はどう処理するのかを説明し、クルー全員が納得するということである。果たして、看護課と医師という縦割りの世界に通用するであろうか。

チェックリストとは、紙に書いた項目を読み上げることで、漏れを防ぐ事である。第二次大戦中、米軍が採用したシステムであり、日本軍はチェック項目が覚えられないのは、たるんでいる証拠だということで禁止していた。結果は、明白である。

さらに、復唱は自分のインテンションを明白かつ確実にする。

この拙文が出る頃には、筆者の関係する病院では、このことを実施しているはずである。トップダウンの改革は期待できないからだ。


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