腰痛
ギックリ腰は「魔女の一撃」
肩こりと同様、腰の痛み、すなわち腰痛も、人類が直立歩行するようになって以来の宿命といわれています。
腰の痛みは、人間がこの世に生を受けてから、遅かれ早かれ、ほとんどすべての人が経験するものです。つまり、腰痛はごくありふれた病気。その大半は医療の助けなしで、自然に治ってしまうものです。
しかし、なかには重大な骨の障害、内臓の疾患につながっているケースもあり、軽くみていると、とんでもないしっぺ返しをくらうことにもなりかねません。
慢性化すると、日常生活に支障をきたし仕事も制限され、また、自由にスポーツを楽しむこともできなくなってしまいます。
例えば、ギックリ腰のことを、ドイツでは「魔女の一撃」といいます。油断していると、ガツンと一撃。魔女のきつい仕打ちを受け、「腰を抜かす」ことになりかねません。
腰が悪いと体全体がおかしくなる
背骨のゆるやかなS字カーブが衝撃を吸収する
腰痛とは、腰が痛いことをいいますが、痛む部位は腰やその周辺だけに限りません。
お尻、足にまで及んできます。
痛みは、激痛、重い痛み、電気が走ったような痛み、ギクッとするような痛みなどさまざまですが、なかには、なんとなくだるいといった症状まで含まれるのが腰痛です。
私たちの体は、背骨で支えられています。正しい姿勢で直立をするとき、背骨はゆるやかなS字カーブを描いています。このようにS字にカーブした背骨によって、動作がスムーズになり、外部からのショックを吸収します。また、S字カーブは、体本来のバランスをとるのに役立っています。
とはいっても、私たちが運動するときに背骨にかかる力は、想像以上に大きなものがあります。座っている状態のときには、仰向けに寝ているときの5倍もの重量がかかっているといわれています。
座ったままお辞儀をすると腰に180Kgの負荷がかかる
姿勢の変化により、椎間板内にかかる負担を調べた報告があります。これによると、例えば体重70kgの人は、普通に立っているだけで約100kgの負担が第三腰椎椎間板(お尻のカーブが始まる付近)にかかるというのです。
さらに立ったまま上体を20度、前に傾ける、いわば軽くお辞儀をした状態ですが、この場合は150kgです。
イスに腰掛けても負担がかかります。ひじ掛けや背もたれのない椅子に腰掛けるだけで、140kg。椅子に座って上体だけを20度傾ける、いわばイスに腰掛けたままお辞儀をする状態ですが、この場合は180kgの力が加わるというのです。
逆に、ゆったりと仰向けに寝た場合には、25kg、横向きでは70kgで、負担は軽減されるのです。
これからもわかるように、立ったり座ったりするだけで、これほどの負担が背骨にかかります。ところが、私たちの日常は、それ以外にもさまざまな動きをしなければなりません。重いものを持ち上げたり、荷物を上から下ろしたり。また、不自然な姿勢を長時間続けたり、坂や階段を上ったり降りたり。またあるときは、つまずいたり、瞬間的に身をかわしたり。背骨にかかる負担は相当なもの。
腰痛を訴える人が多いのも当然といえば当然なのです。
腰痛の悪循環を絶たないと痛みはとれない
ところで、私たちの体は骨格だけで支えられているのではありません。骨には筋肉という頼もしい味方がついています。家を例にして考えてみましょう。骨は、家でいえば柱の役割をしています。筋肉は、壁といってもいいでしょう。この両方のバランスがうまくとれていなければ、家を建てることはできません。
同じように、骨と筋肉は密接な関係を持っています。つまり、壁(筋肉)に問題があれば柱(骨)に、柱(骨)に問題があれば壁(筋肉)に悪影響が及び、体全体のバランスを崩し、痛みを発生させるのです。
腰痛には悪循環があります。まず、背骨がダメージを受けると、ダメージをカバーしようと筋肉が頑張ります。筋肉の緊張により発痛物質ができ、痛みが出ます。筋肉の緊張は、体に異常な負担を与えます。その大きな負担によって背骨に悪影響が及びます。そして、その結果としてまた、筋肉が緊張します。そしてまた痛みが出ます・・・・・・。
これは、ニワトリが先かタマゴが先か、という関係に似ています。ニワトリがいなければタマゴはうまれませんが、タマゴがなければニワトリも生まれません。このように、原因が結果となり、結果が原因となり長く続く関係を“悪循環”といいます。
腰痛の悪循環は、とくに背骨と筋肉を中心にし、痛みを伴いながら継続します。まず、柱そのものを治す(変形性腰椎症、腰椎椎間板ヘルニア、骨粗そう症など)のか、筋肉そのものを活性化させる(運動不足による筋肉の衰えを回復する、悪い姿勢のために疲労した筋肉を回復させるなど)のかを見極めることが大切。これが腰痛を解消し、その悪循環を断ち切る大きなポイントなのです。
背骨、内臓、心が腰痛の三大要因
腰痛の原因としては、大きく3つの要素が考えられます。それは「背骨の変形や筋肉疲労による腰痛」「内臓疾患からくる腰痛」「精神的要因からくる腰痛」です。それでは、「背骨の変形や筋肉疲労による腰痛」からみてみることにしましょう。
【背骨の変形や筋肉疲労による腰痛】
頸椎(肩こりの章、参照)のところでも述べましたが、脊髄は背骨の中のトンネルを通っています。そのトンネルが骨の変形や椎間板ヘルニアによって狭くなり、脊髄や、それから出てくる神経を圧迫して、痛み、しびれ、マヒといった症状があらわれてくるのです。
しかし、実際にいちばん多いのは、神経の圧迫ではなく、背骨が変形し、そこに運動不足などで弱くなった筋肉に大きな負担がかかり、疲労することで痛みが起こることのほうが多いのです。腰の椎間板ヘルニアの場合、ほとんどは、お尻から太ももの裏側にかけて痛みが走ります。お尻より上、つまり、いわゆる腰が痛いというのは、このような筋肉の疲労によるもののほうが多いのです。
【内臓疾患からくる腰痛】
一方、胃、腸、胆嚢、膵臓などの消化器、腎臓、尿管、膀胱などの泌尿器、子宮、卵巣などの生殖器の疾患によっても腰の痛みは起こります。
例えば、胃や十二指腸に疾患がある場合でも、腰痛としてあらわれたり、腎臓や尿路結石でも、腰に激しい痛みが起こることが多いものです。
婦人科領域では生理痛で、腰周辺に痛みが出ることがよく知られています。
【精神的要因からくる腰痛】
いろいろと検査しても異常がみられない。それにもかかわらず、腰に痛みを訴える。つかみどころのないのが心因性の腰痛です。
これには、ストレスや心の病が大きく影響します。心因性の腰痛の特徴は、痛みの程度や場所が一定せず、日によって変わること。また、不定愁訴を訴える場合もあり、長期化するケースも少なくありません。職場や家庭での悩み事、ストレスなどを、体は腰で解決しようとする(あるいは腰痛に形を変えて逃避する)場合もあります。
そのときに、腰痛が起こるわけです。
肥満が原因で起こる腰痛
そのほか、腰の打撲や捻挫、あるいは、激しい咳、尻もち、ケイレンのあと、さらに中腰での掃除、洗濯、アイロンかけ、職場の仕事など、不自然な姿勢を長時間続けるのも腰痛の大きな原因となります。
ところが、意外に知られていないのが肥満です。体の重みが腰に必要以上の負担を強いるため、腰に痛みが発生するのです。加えて、肥満している人の多くは、体重にみあった筋力を伴わない、つまり体重に負けてしまうような弱い筋肉の持ち主が多く、体の重心が前へ前へ傾いてしまいがちになります。
そこで、無意識のうちに上半身を後ろに反らせる力が働きます。相撲とりが土俵の上で、胸を反らせるような姿勢です。そのため、体のバランスを崩し、腰痛になりやすい傾向が生まれてくるのです。
また、結核菌やバイ菌などによる脊髄の炎症、脊椎や脊髄に腫瘍ができた場合などにも、激しい痛みが腰を襲います。
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