[ FARGO ] (ファーゴ)
98分 1996年 アメリカ
監督:
脚本:
音楽:
ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
カーター・バウウェル
主演:
出演:
フランシス・マクドーマンド
スティーブ・ブシェーミ
ウィリアム・H ・メイシー
アメリカ・ミネソタ州の厳冬期。 ファースト・カットには夜の雪原が用意されている。 雪原の上に敷かれた国道の先の闇のなかから、静かに一台の車が登場する。 このシーンこそがこの映画のテーマを見事に象徴している。 運転している男は中年の車の販売員。 彼はある取引の依頼をするため、ファーゴという町をめざしている。 その依頼とは自分の妻の誘拐である。 「妻を誘拐してくれたらその身代金をわけよう」 彼は新たな事業の資金ほしさに自分の妻を誘拐させ、 義父に身代金を出させようと、仮出所中の二人の男に話をもちかけた。 「誰も怪我することなく身代金が手に入る」 偽装誘拐だから、金さえ義父からせしめてしまえば 妻は解放され、誰も怪我することはない。 販売員は万事がうまくゆくと考えた。 しかし、金を得るために考えた販売員の計画はすき間だらけだった。 そのずさんさによって彼の企みは、防波堤が決壊していくように 思わぬ方向に転げ落ちていく。 結局、仮出所中の男によって、妻をはじめ7人の命が奪われる。 そして計画を立てただけの販売員は逮捕され、 それまで人生のすべてを失うことになる。 この映画を見終わった後の虚無感はいったいなんだろう。 それは人の愚かさを見せられたからだろうか。 何か一つの歯車が狂うと、物事は次々によくない方向へと回転してゆく。 そして自分ではかかえきれなくなるほどの重荷を背負ったとき、 人はどうしようもなく立ち往生する。 象徴的な重苦しいファースト・シーンで始まったこの映画は ラストでは、対比するように晴れた雪原に護送車が登場する。 そして、殺人犯の一人を逮捕した女性警官が、 護送車のなかで犯人にこう問いかける。 「人生にはもっと価値がある」と思わないのか。 さらに、晴れわたった空を見上げて、殺人犯に対する彼女の台詞はこうつづく。 「こんないい日なのに信じられないわ」 「こんないい日」と思える気持ちを持つことができるかどうか・・・。 人が背負っている苦しみを救ってくれるのは、 美しいものを美しいと感じる心である。 そしてどんな人生にも「人生には価値がある」と信じる気持ちである。 われわれは、一人一人に自分の存在や人生そのものに 価値があるということに気がつかずに日々を送っている。 しかし、彼女がいうようにすべての人生には価値がある。 自然という対比で構成されたこの映画は、 最後にもう一つ対比を用意していた。 婦人警官のお腹のなかには、新たな命が宿っていた。 どんな境遇に生まれようが、あらゆる人々は何らかの 価値を持って生まれてきたのである。 「ファーゴ」はそんなことを私たちに、静かに語りかけている映画である。