◇首の動脈硬化がない人は心臓の血管も正常
人間の体内には、数多くの血管が走っていますが、中でも首の血管は、全身の血管を映す「鏡」でもあると考えられています。血管が老化して血流が悪くなる症状を動脈硬化といいますが、首の血管は、最も動脈硬化が起こりやすい場所の一つといわれているのです。
首に動脈硬化があるかないかは、ふつう、首に超音波を当てる超音波検査(エコー検査ともいう)によって行われます。超音波検査は簡単に行うことができ、患者さんの体にかかる負担も少ない検査法です。
首の血管に動脈硬化が起こっている場合、冠動脈など心臓の血管や、脳の血管にも同じように動脈硬化が起こっている危険が大きいと考えられています。それを証明した研究結果を紹介しましょう。
(財)関西労働保健協会千里LC検診センターでは、健康診断において超音波検査や、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)による頭部検査などを受けた人を対象に、首の動脈硬化の状態を調べています。動脈硬化には、血管の内膜と中膜が合わさった内膜中膜複合体の厚みが増すタイプと、内膜の一部が盛り上がってプラーク(粥腫。増えすぎた脂肪が血管壁にたまった粥状の塊)ができるタイプがあります。内膜中膜複合体が厚くなるのは動脈硬化の初期の段階、プラークができるのはある程度進行した段階といえます。
同センターの望月茂・循環器科部長らは、成人男女719人に対して、まず首の血管の内幕中膜複合体やプラークの有無を調べ、次に大動脈や冠動脈の状態、脳の血管の状態などを調べました。
その結果、プラークのある人が全体の4分の1(25.3%)に達したことがわかったのです。この人たちの平均年齢は、65歳と高めでした。
そして、4分の3以上(75.8%)で大動脈の石灰化、22.0%で冠動脈の石灰化が見られました。石灰化とは、動脈硬化の進行の状態を示す目安です。その一方で、脳の動脈硬化を示す病変も、およそ半数の48.4%に確認されています。
一方、内幕中膜複合体の厚みが確認された人たちは全体の12.8%でした。平均年齢は62歳。大動脈石灰化はそのうちの52.2%に達し、冠動脈石灰化は6.5%、脳の病変は33.7%となっています。
首の動脈硬化が確認されなかった人は全体の61.9%で、平均年齢は56歳と若い人たちでした。このグループにおいては、大動脈石灰化が30.6%に見られ、冠動脈石灰化は2.9%にしか見られませんでした。
つまり、首の動脈硬化が進むほど心臓の動脈硬化や脳の病変も起こりやすいことがわかったのです。首に動脈硬化があるかないかということは、全身の血管の状態を知るうえでとても有効、かつ重要と見ていいでしょう。
※引用 夢21 2007年8月号掲載記事 (c)わかさ出版 |