新鮮な刺激を与えることで脳は若々しさを保つことができます。
つい近年まで、脳の神経細胞はからだの他の部位の細胞と違って再生しないと考えられていました。ところが動物による実験で、脳の中の「海馬」というきおくをつかさどる部分の細胞が新しく入れ替わることがわかりました。ラットを入れたゲージの中で羽根車をクルクル回してやると神経細胞が再生したのです。一方で羽根車を回さなかったほうのラットは再生しなかった。人間に当てはめると、好奇心を持って何かをすれば脳細胞は再生する、ということなのです。
脳の活性化というと、ゲームや何か勉強することだと思っている人が多いようですが、脳を鍛えるためには「文武両道」が必要です。手足やからだを動かすことがとても有効なんですね。というのは、脳は、学習するときと運動する時とで同じ神経経路(ネットワーク)を使うので、特に何かを学ばなくても、歩いているだけでも脳のネットワークは強化されるわけです。
私達の脳はコンピュータと同じように、インプット(情報入力)→計算(判断)→アウトプット(出力)というネットワークシステムで構成されています。インプットとは「見る(視覚)」「聞く(聴覚)」「さわる(触覚)」「味わう(味覚)」「かぐ(嗅覚)」の五感です。脳は五感から情報を得る(入力)と、「どう判断すればいいか」「どう行動に結び付ければいいか」を考え(判断)、からだに命令を伝え(出力)、それによって筋肉が動いてしゃべったり歩いたりします。
しかし脳のシステムは、毎日同じことを繰り返していると錆付いてしまいます。脳は前にインプットされた情報を記憶しているので、情報を受け取るとまず記憶にあるネットワーク回路が働きます。受け取った情報が以前と同じなら、回路の働きも同じようになり、出力もワンパターンになってしまう。これから脱却するには、コンピュータなら計算ソフトを入れ替えたり、ハードを入れ替えなくてはならないでしょう。
しかし私達の脳は、新しい情報に接すると、新しいネットワークを使ってその意味を読み取ろうとするのです。新しい情報が脳に刺激を与え、活性化させるのですね。脳に刺激を与える手段は、インプットに限ったことではありません。回路を「出力→判断→入力」というように逆にしてアウトプット(出力)、つまり行動パターンを変えることも脳の活性化に有効です。
先ほど「入力」とは五感だと言いましたが、現代社会で普段使う感覚は視覚と聴覚に偏り過ぎています。五感の中でも視覚、聴覚、触覚は言語中枢につながっており言語化できる感覚です。だが味覚と嗅覚は言語化できない。「おふくろの味」や「ふるさとの香り」と言われても人それぞれで、具体的によくわからないでしょう。その代わり、この二つの感覚は脳幹部から記憶中枢にダイレクトに伝わっているので、直接的に記憶と結び付いています。例えば温かいごはんのにおいをかぐと、子供の頃の夕餉の情景がスッと浮かび上がる。そういう感覚です。過去の記憶がよみがえるだけで脳は刺激を受けます。だから味覚と嗅覚を意識的に使うことで、アンチエイジングにつながるのです。そして入力のバランスもよくなります。
付け加えて言うなら、視覚や聴覚を使うにしても、なるべく自然にふれることです。ある実験で、同じ温度の木と鉄を握った時の血圧の変動を調べると、木を握ったときのほうが明らかに血圧が安定したという調査結果があります。そういうふうに私達のからだは自然にふれることで安定するようにできているのです。
五感(入力)をバランスよく使い、時には行動(出力)も変えてみる。そしてなるべく自然にふれる。こうしたことを心掛ければ脳は年齢に関係なく活性化されます。
※引用 パナホームライフ2007夏号掲載記事 (c)パナホーム株式会社 |