愛する人の病気はつらいものです。心中お察し申し上げます。
癌というのは怖いものです。これは、歌舞伎町のど真ん中で、やっちゃんに絡まれるよりもずっとずっと恐怖を覚えるものです。相手がやっちゃんだとしても、喧嘩や暴力はしょせんは長続きしない恐怖です。また、戦い方もあるものです。場合によっては誰かが助けてもくれます。
しかし、病気は、特に癌は、恐怖とたった一人で戦い続けなくてはならないのです。孤独でつらい・・・・たとえ、家族がいても、この場合だけは違うのです。寝てもさめても常に恐怖が付きまとうのです。
まずはそのことを分かってください。
奥さんは、多分明るく振舞ったり、癌はすっかり治ってしまったと言ってることでしょう。確かに手術から3年経ちますから、医学的には癌が再発する可能性は低いと思います。
ただ、それとこれとは別です。やはり、奥さんは精神的には参っているんだと思います。
しかも、慢性に腹痛が襲います。気が休まる暇はありません。
奥さんにとってもっとも欲しいものは、甘えられる相手であり、自分の気持ちを受け入れて、支えてくれる相手です。
勿論、旦那さんであるあなたが何もしていないというのではありません。あなたが、奥さんのことをあなたなりのスタイルで愛していることは伝わってきます。
ただ、結果としてあなたの思いやりが相手に通じていないのは確かなことです。このことは認めてください。だって、奥さんはあなたの言う治療方針には賛成していないのですからね。(反論したいのはわかりますが、まずは僕の話を聞き続けてください)
腹痛を訴える奥さんに対して、あなたは何をするべきなのか。
それは奥さんの恐怖と不安を受け入れてあげることです。
残念ながらあなたの方法論、つまり、病気であるからより良い医者に治療をさせようという理論は、奥さんには通じていません。なぜなら、あなたがまずは奥さんのつらさを受け入れていないためです。
受け入れられない最大の原因は何か。実はあなたはあなた自身の不安や恐怖、つまり、愛する家族を失うのではないかというあなた自身の感情を否定して、あたかもそれが奥さんの感情のように感じているのです。
これは、家族の中では良くあることです。専門的に言えば、投影といいます。
あなたは、奥さんの気持ちを受け入れることが怖いのです。当たり前です。
愛する人を失うのではないかという恐怖は、普通の人には耐えられないくらいの恐怖ですから。
その恐怖に打ち勝つために、お互いで、不安があること、そしてその恐怖が互いに分かれなければならないかもしれないという点にあることを分かりあってください。
その点をふたりでまず話し合ってください。その感情を、互いに不安であることを共有してください。奥さんだけのつらさではなく、自分もつらいということを共有してください。
今のところ奥さんの場合、本当につらい気持ちや不安感を分かってもらえている感覚は(厳しい言い方をしますが)御主人ではなく主治医の先生であることはもうお分かりですね。
多分、その先生は奥さんのつらいときに、心の奥にある何かに触れたのでしょう。奥さんはまずそれが欲しいのだと思います。
奥さんのおなかが痛いときに、どれだけの時間さすってあげたのか思い出してください。
あなたが今するべきことは、セカンドオピニオンを提示することではありません。
まずは、時間を共有し、そしてゆっくりとおなかをさすってあげることです。
十分にそれができて初めて、奥さんはあなたの薦める先生にかかってみようかなという気になるはずです。
家族というものは不思議なものです。自分自身の存在にかかわるような問題が日常茶飯事に起こります。そして、家族であるがゆえに解決できるのです。
奥さんは正直にあなたに気持ちを出してきているのです。奥さんが頑固なわけではなく、あなたも頑固に別の医者を薦めているのです。
どちらの医者が正しいのか、あるいはどちらも正しいのか、間違っているのか僕には分かりません。ただ、あなたが受け入れられていないということだけが分かります。
これは、チャンスです。
よりいっそう分かり合えるチャンスです。
事実は、自分のなかに存在することの現実への投影です。
あなたの中ののかたくなさをまず認めてください。そして、繰り返します。
奥さんのおなかを優しくなでてあげてください。一緒にすごす時間をもっともっと持ってください。反論したい気持ちは分かります。でも、しかし、自分は・・・・とおっしゃりたい気持ちも分かります。ただ、そんな暇があるなら、まずは奥さんと一緒にいてあげてください。そして、不安なご自身の気持ちともいてあげてください。
そうすれば、もっとより良い治療とゴールが得られるはずです。
奥さんのために、僕は祈ることにします。僕にできることはそれだけです。
では、お大事に。
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